新たな統計的因果推論手法の提案(統計学の新知見)
たとえば,薬の効果を知りたいとき,「薬を飲んだ場合の結果」と「薬を飲まなかった場合の結果」は同時に調べることができません。
あらゆる科学において,因果推論は研究の重要な目標ですが,このような潜在的な結果の差から考える必要があるにも関わらず,潜在的結果のうちの片方しか観測されないことから,統計的因果推論は「欠測データ(データの一部が観測されない)問題」といわれています。
欠測データの対処法として多重代入法が知られていますが,閾(しきい)値における局所的な平均因果効果を推定する手法として,多重代入法を活用することは,これまで議論されて来ませんでした。そこで,本学部の高橋 将宜准教授は,多重代入法によって閾値における局所的な平均因果効果を適切に推定できることを示しました。また,フリーソフトRにより分析ツールを開発して,簡便に利用できる環境も整えました。
本研究で得られた成果は,インパクトファクター付の統計学専門誌「Communications in Statistics – Simulation and Computation(Taylor & Francis)」に掲載されました。応用例として,「選挙における既存勢力の優位性に関する分析」,「教育と貧困の関係に関する分析」,「新型コロナワクチン接種に関する分析」など,今後,因果推論を目的とするさまざまな研究に寄与することが期待されます。
図1:観測データ(左図)と潜在的結果のシミュレーション(右図)
図2:非処置群の観測データとシミュレーション(左図)と処置群の観測データとシミュレーション(右図)
■論文タイトル
Multiple imputation regression discontinuity designs: Alternative to regression discontinuity designs to estimate the local average treatment effect at the cutoff
多重代入法回帰不連続デザイン:閾値における局所的な平均処置効果を推定するための回帰不連続デザインに代わる手法
■掲載誌
Communications in Statistics – Simulation and Computation(Taylor & Francis)
https://doi.org/10.1080/03610918.2021.1960374
オンライン公開日:2021年8月18日(オープンアクセス)
■著者名
高橋 将宜:長崎大学情報データ科学部 准教授
https://www.idsci.nagasaki-u.ac.jp/research/faculty-list/staff19