長崎大学 情報データ科学部

学術情報 詳細Academic Information

2022年05月11日
受精卵にまで遡ってモニターできる新技術の開発

 本学部の松本拡高准教授は、放射線影響研究所の内村有邦研究員や大阪大学大学院生命機能研究科の八木健教授らとの共同研究において、ゲノムDNA上で自然発生する突然変異の情報から、受精後の細胞分裂過程をモニターすることを可能とする新たな方法論を提案しました。本研究で得られた成果は学術誌「Genome Research」に掲載されました。

 

■研究の目的と成果
 ヒトなどの個体は1つの受精卵から始まり、細胞分裂を繰り返し2細胞期、4細胞期と細胞の数が増えていくことで形作られます。そのような受精卵から細胞分裂を繰り返す過程において、細胞がどのように分裂し、どのように成体を形成していくかは、まだ分かっていないことも多いです。
 本研究では、ゲノムDNA上に自然に発生する突然変異(モザイク変異)を調べることで、受精後の細胞分裂の過程をモニター可能にする新たな方法論を開発し、実験用マウスにおいて体細胞や生殖細胞へと運命が決定されていくまでの細胞分裂の過程を再現することに成功しました。

 

■研究成果の意義
 本手法は、大人の組織サンプル(血液など)を解析することによって、その個体が受精卵だった頃まで遡り、細胞分裂過程をモニターすることを可能とします。このようなアプローチは遺伝子改変等を利用しないため、ヒトを対象とした研究にも利用可能であり、個体発生と疾患の発症の関わりなど発生に関わる様々な生命現象を解き明かすことに繋がる重要な技術となると期待されます。

 

■分担者の役割
 本学部の松本拡高准教授は、内村博士らが開発・計測したモザイク変異の存在頻度データから、分裂過程を再構築するアルゴリズムを開発しました。本アルゴリズムは下図の「和の関係に基づく推論」と「大小関係に基づく推論」の2つの指針に基づいています。まず、「和の関係」に基づき母細胞と2つの娘細胞の関係を列挙し、ついで親が割り当てられなかったモザイク変異に関して「大小関係」に基づき母細胞と1つの娘細胞、およびその対となる擬似的な娘細胞をトップダウンに追加することで、全体の分裂過程を表す木構造を再構築しています。

本研究の詳しい解説は、大阪大学大学院生命機能研究科より発表されたプレスリリースを御覧ください。

 

■論文情報
掲載誌:Genome Research
論文タイトル:Early embryonic mutations reveal dynamics of somatic and germ cell lineages in mice

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