プロのコトバ

バイオ×DS×ビジネスをスキルセットした医薬品開発の牽引者
- 会社名
- ヤンセンファーマ株式会社
- 所属部署名・役職
- データサイエンス・エンド・デジタルヘルス/シニアプリンシパルデータサイエンティスト
- 入社年
- 2021年
- 略歴
学生時代にバイオインフォマティクス分野で修士号・博士号を取得。2008年4月、新卒で田辺三菱製薬株式会社に入社し、R&D(研究開発)部門のリサーチサイエンティストとして働く。2014年4月からは共同研究のため企業派遣のポスドク(博士研究員)として米国のジョンズホプキンス大学に留学。2016年7月、田辺三菱製薬に戻りシニアリサーチサイエンティストに。2018年4月から2020年12月までは田辺三菱製薬の親会社である三菱ケミカルホールディングス(現三菱ケミカルグループ)に出向し、グループ全体のDX推進に携わっていた。DX業務に従事中には、ビジネス変革のノウハウを学ぶためMOT(技術経営修士)も取得している。
- 主な業務経験
・バイオインフォマティクスを活用した創薬研究やDXの推進(前職)
・医薬品開発の成功確度を向上させるデータサイエンスプロジェクトの創生・推進 など
インタビュー | データサイエンスによる医薬品開発の成功確度向上
現在の仕事について
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Johnson & Johnson Innovative Medicineの紹介
Johnson & Johnsonは、米国ニュージャージー州に本社を置く多国籍企業で、世界最大級のヘルスケア企業です。1886年に設立され、医療用医薬品および医療機器の開発・製造を行っています。Johnson & Johnsonの医薬品部門であるJohnson & Johnson Innovative Medicine※は、がん、免疫疾患、精神・神経疾患、心・肺疾患、および眼疾患領域における学術及び情報提供活動を強化しながら、私たちの薬剤を必要とする全ての患者さんが適切なタイミングでベストな治療を選択するための活動を続けています。私たちは、今後も医療の未来を切り拓き、日本の患者さんに革新的な医薬品をお届けしていきます。
※日本法人としては社名を「ヤンセンファーマ株式会社」として登記
入社した理由
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Johnson & Johnson Innovative Medicineへの入社を決めた理由はいくつかあります。まず1つには、グローバルメガファーマにおける世界最大級のデータサイエンス部門で働く機会に強く惹かれたことが挙げられます。また、多様な疾患領域のポートフォリオを有している点も魅力でした。特に、がんや精神疾患などのデータが豊富に取得できる疾患領域にも注力しており、データサイエンスの強みを活かした患者集団を深く分析する研究や疾患横断的な取組みに興味を持ちました。さらに、企業哲学であるCredoに基づいて患者や従業員、コミュニティを大切にするその姿勢に共感したことも、Johnson & Johnson Innovative Medicineを選んだ理由の1つです。
参考)https://www.janssen.com/japan/about-us/ourcredo
現在の仕事と役割
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Johnson & Johnson Innovative Medicineにおけるデータサイエンスの歴史は長く、幅広い部門にデータサイエンスを扱う多くの部署が設けられています。そんな中で私の仕事を端的に言えば、医薬品開発の成功確度を向上させるためのデータサイエンスプロジェクトの創生・推進となりますが、ここではオペレーショナルエクセレンスとエビデンス・ジェネレーションに関する取組みをご紹介します。
1)オペレーショナルエクセレンス
業種を問わず、効率的な業務の究極系は完全自動化と考えられます。完全自動化が実現しても、競合の出現や規制の変化といった外部要因によってオペレーションの変更は必要になりますが、その対応・判断だけに人的資源を集中させることが可能です。医薬品の研究開発においても目指すところは究極に効率化されたオペレーションであり、ディープラーニングを用いた化合物選定や画像解析による薬効評価など、多くの場面でデータサイエンスが活用されています。
様々な研究を経た医薬品候補も、最初の臨床試験(治験)から市場に出るまでの全体的な成功率は約10%と言われます。私たちのチームでは、治験の成功率を高めるために、過去の治験データをAIに学習させたり、アドバンスドアナリティクス(観察的なデータ分析から知見を導く手法)を活用したりして、治験におけるオペレーションを効率化・高度化する取組みを進めています。特に、定められた期間内に治験を完了させるために、過去の治験データなどを利用して、必要な被験者を募集できる可能性の高い治験施設を選定する取組みに注力しています。2)エビデンス・ジェネレーション
医薬品開発においては、RWD(リアルワールドデータ)の分析から新たな知見(エビデンス)を導き出す取組みも重要な役割を担っています。医薬品業界におけるRWDとは、電子カルテやレセプト(診療報酬明細)、健康診断や保険の請求データなど、実際の医療現場に存在するデータ全般を指します。これらを分析し、実際の臨床現場での医薬品の効果を正確に評価することで、実はこの薬はこんな症状にも効いているとか、こういう生化学的なパラメーターを持っている人は予後が良いなど、あらかじめ条件を定めて集めた治験データでは得られない新たな知見につながることがあるのです。使うのはヒストリカルなデータですからランダム化比較試験のように莫大な費用と時間もかからず、臨床開発や市販後調査の迅速化に貢献することができます。私たちのチームも、様々なRWDを用いた研究を進め、治験デザインに役立てたり、アンメットメディカルニーズ(現在の治療法では十分に解決できていない医療ニーズ)を特定したりして、医薬品開発を支援しています。最後にもう1つ、デジタル風土改革の取組みにも触れておきます。
データ駆動型ビジネスへの変革は、私たちのチームだけでなし得ることはできません。改革への熱意を持ったリーダーと、デジタル変革を私事として捉え自らデータ活用に挑戦するマインドセットを持った従業員が必要です。先ほどご紹介したオペレーショナルエクセレンスを進めるうえでも実際の治験に携わる現場の方が一緒に取り組んでくれることが不可欠ですし、エビデンス・ジェネレーションに関しても日本の医療環境をよく理解した現場の方にどんなエビデンスが必要なのかを一緒に考えてもらわなければ課題設定がうまくできません。私たちのチームでは、会社全体がデータ利活用に積極的に取り組めるよう、全従業員を対象とするデータサイエンスに関する啓発セミナーやデータサイエンティストとの交流イベントなどを企画・運営し、企業風土の改革に取り組んでいます。
グローバリゼーションの流れで様々なものの標準化が進んでいますが、データの世界では必ずしもグローバル化が正解とは限りません。国や地域によって病院の数や規模、医師の思考には違いがありますし、感染率が異なる疾患もあります。データ駆動型としてビジネスとデータが密接に関わってくるとなれば、日本特有の状況を反映したビジネスでは使うデータやその使い方も日本ならではであるべきです。私は日本でのデジタル風土改革から、グローバルに発信できるようなデータ利活用の基盤を作っていきたいと考えています。仕事に必要な知識・スキル
1)データサイエンスまたはデータエンジニアリングの高い専門性
Johnson & Johnson Innovative Medicineには多くのデータサイエンティストが在籍しており、特に欧米以外の拠点で活躍するためには際立った強みが求められます。博士号の保有、高インパクトの論文執筆、アカデミアでの研究経歴、Kaggle等のコンペでの上位入賞やスタートアップの起業経験などは大きな強みとなります。2)社外コミュニケーションの能力
私たちのチームでは、外部との協業(オープンイノベーション)を推進し、最先端技術を積極的に取り込んでいます。社外のキープレーヤーとのエコシステムの形成は、チームを成功に導く重要な戦略の1つと言えます。また、イノベーティブな治療法を患者様に提供するためには、医療機関や規制当局とも密接に協議することが必要です。このように、社内だけではなく社外とも良好な関係性を築くことができるコミュニケーション能力は必要不可欠と言えます。3)2つのバイリンガルスキル
1つ目は言語で、英語は国際企業で働くうえで必須です。2つ目は、サイエンスだけでなく、ビジネスも理解することが求められます。MBAやMOT、PMPなどの資格はビジネスの理解に役立ちます。コンサルティングファームでの実務経験も非常に有効です。仕事に対する考え(想いやこだわり)
1)高い視座を持つこと
最先端の分野を切り拓くためには、細部へのこだわりと徹底的にやり抜くことが必要です。しかし、時には視点を広げることで、今の方法よりもさらに効果的なアプローチが見つかることがあります。また、現在の問題よりも、もっと取り組むべき重要な課題が見えてくることもあるでしょう。私は、今取り組んでいるプロジェクトや課題が、チームや会社、業界、さらには、社会にどのようなインパクトを与えるのかを常に意識しています。1年後、10年後、100年後の未来にどんな貢献ができるのか、常に高い視座を持って考えることを大切にしています。2)Patients are waiting!
データサイエンスのスキルはどの業種でも非常に高い需要がありますが、私はキャリアの大部分を医薬品開発に費やしてきました。その最大の魅力は、手がけた薬が上市されることで、多くの患者さんの命を救うことができるという点です。医薬品開発は非常に長いプロセスであり、時には目の前のことに囚われがちですが、私たちの薬を待ち望んでいる患者さんがいることを忘れず、日々の業務に取り組んでいます。
MESSAGE
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情報データ科学部学生にむけて
医薬品業界でデータサイエンティストを目指す方は、以下のことを意識してみてください。
1)基礎科目の徹底
医薬品開発の場合、物理、化学、統計学、情報学といった基礎科目が非常に重要です。最新技術に興味を持つ方も多いかと思いますが、データサイエンスの分野では技術の進歩が非常に早く、標準的だった手法がすぐに陳腐化することも少なくありません。しかし、これらの最先端技術の多くは基礎技術の応用です。基礎がしっかりしていれば、新しい技術にも柔軟に対応できるため、基礎の厚みが将来の成功に大きく貢献します。2)英語コミュニケーション力の強化
卒論研究では英語の論文を読む機会が多く、場合によっては英語で卒論を書くことも求められるでしょう。しかし、外資系企業では日常的に同僚とのやり取りが英語で行われるため、英語の読み書きはもちろん、高いスピーキング力・コミュニケーション力が求められます。交換留学や国際学会での口頭発表などの機会は積極的に挑戦すると良いでしょう。3)プログラミングスキルの向上
医薬品業界で人気のあるプログラミング言語には、RやPythonがありますが、どの言語も基本的な原理は同じです。重要なのは、1つの言語で構わないので、自在に使いこなせるようになることです。大学での演習に加え、Kaggleのようなデータ分析コンペに参加し、実践的なスキルを磨くのも良いかもしれません。4)博士号(Ph.D.)や医学士(M.D.)の取得を目指す
医薬品業界で、とりわけ外資系の研究開発職では、博士号(Ph.D.)や医学士(M.D.)を保有する人が多く活躍しています。もし極めたいと思えるようなテーマが見つかったなら、博士課程や医学部への進学を検討することもキャリアにおいて非常に有益です。学生へのメッセージ
データサイエンスに興味を持っている皆さん、今こそそのスキルを最大限に活かす時です。医薬品開発では、膨大なデータに基づく意思決定が欠かせません。私たちJohnson & Johnsonでは、AIや高度なデータ分析を駆使して、従来の開発手法を革新し、新しい治療法の発見や開発スピードの向上を目指しています。グローバルな環境で、世界中の優秀なデータサイエンティストたちと共に働くチャンスも豊富です。私たちは、多様な視点とスキルを尊重し、革新的なアイデアを実現する場を提供しています。皆さんのデータサイエンスの知識とスキルで、医療の未来を一緒に切り拓きませんか?
興味があれば、ぜひ私たちと一緒に医療の進化を支える旅に出ましょう!