プロのコトバ

先端技術で地図作成の高度化を推し進めるゼンリンの司令塔
- 会社名
- 株式会社ゼンリン
- 所属部署名・役職
- 研究開発室 地図基盤技術担当 担当課長
- 入社年
- 2007年
- 略歴
大学と大学院修士課程では、土木工学を専攻し空間情報学について学びました。
空間情報学とは、地図をはじめとする空間を対象とする情報を解析するための技術です。私は、位置情報が不正確なデータに正確な位置情報を付与して活用するシステムに関わる研究テーマに取り組みました。
現在の会社に入社してからは、研究開発部門で働いています。
主に地図情報作成の高度化・効率化に貢献するための技術開発を行ってきました。
インタビュー | 高品質な地図を作る!ゼンリンのコダワリとは!?
現在の仕事について
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自社紹介
株式会社ゼンリンは、住宅地図、カーナビゲーション用の地図、自動運転用の地図、GIS(地理情報システム)・マーケティング用の地図等、様々な地図情報を用いた商品・サービスをご提供しています。
ちなみに皆さんは、地図がどうやって出来るかご存知ですか?
実は、計測車両を使い計測をして地図を作成しています。
写真のように、GPS、カメラ、レーザセンサなど、様々な計測機器を搭載した計測車両を用いて、実際に道路を走行し、データ収集しています。このような計測装置を一体化したシステムも市販されてはいますが、それだとカスタマイズ出来ないので、ゼンリンでは、用途に応じた計測装置を組み合わせて計測車両を作っています。
計測車両を使って実際の道路を計測
また、収集車両では集められない情報(お店の名前など)は、全国に配備した調査員が歩いて現地を確認し、情報を収集しています。
最後に、集めたデータを自社で加工するなどして、地図データとしてまとめていきます。この工程においても、非常に精度の高い、正確な地図を作成するために、人の目でチェックすることは欠かせません。このように、全ての工程に、非常に大きな労力をかけているのです。
入社した理由
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大学時代の興味および専攻と、当社の事業内容とが重なる部分が多く、能力が発揮できそうだと考えたためです。
現在の仕事と役割
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私自身は管理職として、地図情報作成の高度化・効率化のための技術開発を行っているチームのマネジメント業務を行っています。
会社全体で定められた中期の事業計画に対して、自分たちのチームとして取り組む課題やその計画を立て、実際の担当者が担当できるレベルまで落とし込む役割を行なっています。
具体的には、下記のような課題に取り組んでいます。
- 専用車で収集したプローブデータ(※)から、道路形状など地図情報に必要な情報を抽出・関連付ける方法
- 地図情報を作成するための情報を効率的に収集する方法
- 地図作成工程の自動化を行うことで効率化を図る方法
- 作成した地図情報の統計的な品質管理を行う方法
※車両をセンサとしてとらえ、走行速度情報、位置情報等を収集することにより、道路交通情報を生成するシステムをプローブシステムといい、その収集データをプローブデータと呼ぶ。
これらの課題に対する取り組みをひとつ、ご紹介します。
前述したように、正確な地図データを作成するためにはとても大きな労力や時間がかかります。そのため、ビジネスとしてはこれをいかに効率化させるかが大きな課題です。時間の経過とともに、新しい建物ができたり、道路ができたり、街の形は変わっていきますから、地図データもそれにあわせて更新していかなければいけません。
しかし、地図に必要な全てのデータをイチから取り直して、差分をチェックするのは大変です。そのため、効率的に地図の更新差分を見いだすために、ゼンリンの計測車両だけを用いるのではなく、日常的に街中を走行しているタクシーのドラレコデータも活用して、地図データの差分更新箇所を見つける仕組みを作っています。
また、地図作成の効率化に関する取り組み以外にも、自動運転やドローン用の地図など、新たな利用目的にあわせて、新しい種類の地図データを作るという取り組みも行っています。
地図作りで重要なことがふたつあります。
ひとつは品質保証です。
お客様に商品として提供するためには、単に地図を作るのではなく、その精度を担保していくことが非常に大事です。そのためには、データの正確さを検証する方法、実際に精度を維持する方法が必要となります。
このためには、地図を作成するための情報源の正確さや、用いる計測機器の正確さや、データを加工する工程で生じ得る誤差などを整理して、統計的に検証する必要があります。もうひとつは、その品質を理論的に説明することです。
新しい技術に取り組む際にも、お客様に対しても、その地図の精度をどこまで高めるべきかの説明を必要とされることがあります。品質とコストのバランスを取って、ビジネス観点で、理論的に伝える力が求められます。
なお、ゼンリンの研究開発室は、本社である北九州の他に、東京、福岡、長崎といった複数の拠点に分かれており、それぞれのミッションに取り組んでいます。
中でも、長崎拠点では、次に必要となる技術開発を行ったり、産学連携の取り組みを行ったりといった役割を担っています。仕事に必要な知識・スキル
技術的な点としては、統計学、幾何学・線形代数、画像処理、機械学習、三次元データ処理、プログラミング技術、その他の情報工学に関する一般的な知識が必要であり、マネジメントのためのプロジェクト管理などが必要です。また、ゼンリンならではの点として地図に関する一般的な知識も必要です。
よく勘違いされるのが、ゼンリンだから地図に詳しくなければ入れないと思っている方がいるのですが、そうではないです。
もちろん入社したら位置情報を体系的に管理する仕組みである座標系など専門知識は必要ですが、それは学生の時に学んでなくても大丈夫。どちらかといえば情報工学をやっていた人は強いし、入社後業務に適応しやすいと言えます。
画像処理や流行りのAIなどの知識もあると良いですね。私の場合、数学、統計を使うことが多かったです。大学の専攻が情報系ではなかったため、情報工学に関する知識は入社後に学習しました。
仕事に対する考え(想いやこだわり)
地図会社での研究開発というと、どのような技術が活用されているのかはなかなか想像しづらく、情報データ科学や情報工学とは関連が薄いように思われがちですが、実は統計学・機械学習といった技術により解決できることが多数あり、技術者として非常にやりがいがある仕事です。
MESSAGE
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情報データ科学部生にオススメする学びとは?
実際にカリキュラムを拝見させていただき、習熟レベルの違い(弊社で働く上ではそこまで必要とはしないもの)はあるものの、ほぼすべての分野を学ぶべきだと感じました。
■ 統計学系科目 全般- 地理的・時系列的に発生する、大量のデータを解析する必要があるため。
■ 画像処理、マシンビジョン等- 地図情報を作成するための情報源を収集する方法として、各種センサを用いており、これらの情報を効率的に処理するための技術として必要であるため。
■ 情報学基盤 全般、基礎数学 全般- 上記を行うための基礎という位置づけ。
「仕事に必要な知識・スキル」で記載した項目は、私は大部分を会社に入ってから身に付けました。
情報データ科学部のカリキュラムを拝見すると、私が入社してから自ら学んだ内容がカリキュラムに現れていて、それを学ぶ環境にいる皆さんを非常にうらやましく感じます。
この機会に、現在履修されている科目が将来どのように役に立つのか、いろいろと想像してみてください。